2009年3月27日金曜日

『資本主義はなぜ自壊したのか』(中谷巌)

資本主義はなぜ自壊したのか 「日本」再生への提言
資本主義はなぜ自壊したのか 「日本」再生への提言中谷 巌

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最近、書店へ行くと経済所のトップにあるこの本。

著者は、大学院時代にアメリカで経済を学んだ時に、その理論の美しさに魅了され、新自由主義の論者になったらしいです。

それから数十年とその主張に固執してきた著者が、自身の経験と照らし合わせながら、新自由主義に潜む問題点について解説し、市場原理主義ではいけないと主張している訳です。

経済学部生として興味深かったのは、

経済学の理論の美しさの裏には色々な仮定がある、というのが見逃されている

という主張。

確かにミクロ経済学において市場が機能するための条件は、

・競争的市場である(個人・企業の存在が無視できるほど小さく、市場の条件を受け入れて行動している)
・市場は匿名である
・外部性が無い(他人がどうなろうと、自分の幸せには影響しない)
・独占が無い
・所有権がノーコストで保証されている
・政治はコストがかからない

などなど、実はたくさんの仮定がおかれています。

そんな中で、
「近代経済学に登場する人間は、自らの満足を最大化する目的を持って合理的に行動する存在であり、『社会』という概念は入り込む余地がない」(p.54)
ので、

「『武士は食わねど高楊枝』とやせ我慢をし、それが心意気だと感じる。(p.55)」
とか、
「江戸時代の商人たちは『三方よし』といって、自分だけが儲けるのではなく、相手を儲けさせ、しかも、世間にも利益を還元することが商売の理想だと考えていた。(p.55)」
というところがルーツになっている、「利益は二の次」というような日本社会には、全く定着するはずが無い、というのが著者の主張。

ちなみに、著者によると

「欧米は日本と違う階級社会(p.61)」

であり、そのエリート階級が多くの情報を持っており、

「経済学的にいえば、情報に非対称性があって、情報をより多く持つほうがより大きな利益を上げることができる。(p.66)」

ために、新自由主義による自己責任論は

「アメリカやヨーロッパのエリートたちにとって都合のいい思想(p.61)」

であり、このために社会的に力を持ったと考えている。

とすると、格差が拡大するのも当然、ってところか。


この本は、日本と欧米の文化比較を行っていて、

  1. 西洋文明においては、自然的な存在は基本的に「悪」であり、ゆえに人間がそれを制服しなければならない。
  2. キリスト教において大事なのは、人間と神の垂直的関係。
  3. ここから派生した資本主義においても、自然は商品の一部でしかない。
  4. 日本は古来から自然物を聖なる物として扱っていた、いわば多神教である。
  5. 「自然は天から与えられたもの」という思想、「人間は自然の中で生かされている」という考え方が大切
と述べている。


最後にもう一つだけ取り上げるとしたら、
世界経済フォーラムで出された国際競争力の順位などを見ながら、デンマークなどの「高福祉国家」が台頭している、と著者が主張している点かな。
デンマークでは、政府に収入の7割も取られるものの、社会的な安心が手に入るから誰も文句を言わない、らしいです。
「政府に資金を預け、将来の生活に責任を持ってもらうほうが楽だ」という市民の発想には、共感できる物があります。
今の日本だと、失業すると、最低限の生活が保証されないような気がするので。


最後にコメントですが、史観にぶれが無くて良いのですが、ロジックがしっかりしていない部分が多くあります。

例えば、「西洋文明においては、自然的な存在は基本的に「悪」であり、ゆえに人間がそれを制服しなければならない。」という著者の視点の根拠が示されていなかったり。
EUは環境に対しては、ポスト京都に向けた先導役を買って出ているし、「西洋文明」とくくってしまうのはどうなの?という気もします。

ロジックがしっかりしていない分、都合のいいように根拠をはっつけてるような気もしますが・・・
まぁ有名な著者だし、共感できる点も多いと思うので、是非読んでみて下さい。

経済というより、経済システムとか政治とかに興味ある人が読むといいかも。

2009年3月18日水曜日

『よくわかるブラック・ショールズモデル』(蓑谷 千凰彦)

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ブラック・ショールズモデルとは、金融におけるオプションの価格決定理論の一つです。

オプションっていうのは、デリバティブの一種なのですが、興味ある人はコチラへ。

その内容は数学的に難しくて、

「伊藤積分は文系の人には無理である」

「デリバティブで使われる数学は35歳を過ぎたら理解できない」

などと言われています。

そんな伊藤積分を丁寧に解説してくれるのがこの本。

めちゃめちゃハードですが、僕が探した中で一番分かりやすい本だと思います。

普通の人は読まない方がいいんだけど、ファイナンスとかとレーダーとかに興味ある人は是非。

難しい本なので、コメントは短めにしました。

2009年3月17日火曜日

"A Technique for Producing Ideas" (James Webb Young)

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James Webb Young

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アイデアはどうやったら生まれるか?についての考察がかかれている本です。

凄い短い本なのですが、重要な点だけまとめると

・アイデアとは既存の知識の新しい組み合わせである。知識を輪のように捉えて、そこに関係性を見出す事ができる人ほど、多くのアウトプットができる。

・アイデアを出す手法とは以下の5段階をである。
  1. 根源的な情報・資料を多く仕入れる
  2. それらの情報を頭の中で整理する
  3. 問題意識について、可能な限り、頭から取り除く
  4. ある日突如として、アイデアが生まれる
  5. 実用的な形へとアイデアを加工して、発表・利用する
・教育は第一段階の部分において、とても重要である。

という感じ。

アイデアを出すという作業を体系的に考えた事は無いけど、でも僕も大体いつもこういう経路を辿っている気がします。

風呂の中とか、朝起きる時とかに、ふっと閃く感じは3→4ですね。

あえて言うなら、3の時に体の疲れもある程度取っておかないと、4にはジャンプできないような気がします。

1940年代に書かれた本が、現代にこれだけ通じるのは奇跡的です。

簡単な英語だし、ページ数も少ないので、興味ある人は是非読んでね。